

今を生きる現代女性の美しさを、
彼女たちが心に描く、繊細でしなやか、
そして時に力強い風景と共にご紹介する
COLUMN of COLUMN。
日常のさまざまな角度から、
美の解釈を映しだし、
COLUMNを通してその女性の輝きが
宿る瞬間に触れる時間。
「自分のなかの“ピース”を守る方法を身につけたから、強くなれた」という、元競泳選手の一ノ瀬メイさん。
2016年にリオデジャネイロ・パラリンピックに出場、現在も4泳法すべての日本記録を保持している。
現役を引退後は、ウェルビーイング、ダイバーシティ&インクルージョン、サステナビリティを軸に、自らの体験に基づいた発信を続けている。
大人の女性の魅力を引き立てる知的でフェミニンなCOLUMNの洋服をふだんから愛用しているというメイさんが、多様化する時代のなかで生きづらさを感じている女性たちに向けて送るメッセージとは?

「人と違う体で生まれて生活していくなかで、自分が実際にできること、周りができないと決めつけていることの間に差があると感じていました」1歳半で水泳を始めたメイさんは、小学生のころに障害を理由に地元のスイミングスクールへの入会を断られるという障壁を経験する。「障害者への理解がずれていることに怒りがあったし、怒りは私の大きなモチベーションでした。なめられたくない、人の思い込みを変えたい、人の期待に応えたいなど、関心が自分自身ではなく外に向いていました」
厳しい練習を乗り越えて、出場を果たしたリオデジャネイロ・パラリンピックという夢の大舞台。スタート台に立って究極に追い込まれた時に、“自分が頼れるのは自分しかいない”と痛感する。
「自分がコントロールできるのは自分しかいないし、自分の人生を歩むのも自分だけ。意識を向けるべきは自分自身だったのだと思い知りました。この経験をきっかけに、自分がどうしたいか、どう感じるかを常に考え、一つ一つの選択に向き合えるようになったんです。
日々の選択を自分軸でできるようになると、見える景色が変わってくる。そのうち外野の声がどんどん小さくなっていって、自分自身に満足したり、きちんと認められるように。自分の中にある“ピース”を守っていると、目の前の現実も“ピース”になっていくんです」

この気づきのプロセスに、メイさんのマネージャーも務める夫、島田さんの影響はあったのだろうか?
「自分が変わっていった先でいいパートナーに出会えたと思っています。各々が自分の面倒を見られて、自分の機嫌が取れるからこそ、100と100を持ち寄って200になれる関係が築ける。誰しもパーフェクトではないけれど、“セルフアウェアネス”があれば、できることとできないことを自覚できる。それは結果として、自分にできないことをできる相手に敬意を持つことにつながります。人って結局、自分を理解した深さまでしか他人を理解することはできない。他者との関わりと同様に自分との関わりも大事にしていかないと、最終的には自分自身が空っぽになってしまう。これが、パラリンピックを通じて私が学んだことです」

水泳選手として厳しいトレーニングをしてきたメイさん。自分の内なる声と向き合う秘訣も、やはり運動だという。
「フィジカルが整うとマインドも整う。なかでもコロナ禍で出会ったヨガの存在は大きいですね。未来を考えると不安だし、過去を振り返れば後悔が押し寄せる。でもマットの上に上がれば、今に集中するしかない。今にとどまり続けることをヨガに教わり、日常生活に落とし込めるようになりました。思考、呼吸、瞑想を通じて自分を見つめる練習。無理して“無”にならなくてもいいんです。ポイントは自分の思考をただ客観的に見つめること。上手くできないときはジャーナリングもします。まとまらないこともそのまま書くことで、だいぶ気持ちが整理できます」

競技生活を引退後は、モデルとしての活動もスタート。
「今回着用した洋服は、どちらも自分にとって少し新しいスタイルでした。でも今までにないからこそ楽しくて、着ていて心地いいからこそ挑戦できる、そんな安心感をCOLUMNには感じました。何に取り組もうと私は体現者でありたいと思っているので、自分の思考、発言、行動を一本の線に乗せることを意識しています。自分のことを理解してもらう手段として取り組んできた水泳。競技を通じて達成できたこともありますが、パラアスリートである以上“障害がある”というカテゴリーから抜け出せないのが歯がゆかった。だからこそ一ノ瀬メイ個人として表現できるモデルの仕事に新たなやりがいを感じています。私の考える人間の美しさとは、自分を100%受け入れて、自分の価値を力強く握りしめられる人。そして他者の美しさも理解できる人」自分の中に揺るぎない芯をもちながら、可憐にたおやかに今をサバイブする。メイさんは、COLUMNが描き出す、聡明でやわらかな女性像そのものなのだ。

メイさんが取り組んでいる、他者に不寛容な社会やシステムを変えていくのにもっとも必要なことは?
「大前提にあるのは“セルフケア”。持続可能な活動にしていくには、まず自分が満たされていないと難しい。自分が満たされたとき、あふれ出てくるもので周囲を満たせるようになると思います。次のステップとしては、みんなが問題を自分事として受け止められることが大切。障害は社会が作り出していると捉えるようになると、個人から社会の問題になるからです。マジョリティのことを考えて作られたシステムだから、マイノリティが損をしたり、生きづらさを感じてしまう。例えば右利きが約9割を占める社会において、左利きの人はやりにくいことも多いですよね。ほんの少し視点を変えてみると社会には障害があふれている。個人がそれぞれのマイノリティ性を理解していると、他者のマイノリティ性にも気づけたり受け入れたりしていけるはず」

みんなが当事者であり、問題を自分事として受け止められる社会を目指しているメイさんにとって究極のゴールは、全員が幸せを感じられるコミュニティ。
「私と同じ"障害者"の人で生きづらさを感じている人がまだたくさんいるのに、自分だけ幸せになっていいのかな?と思ったこともありました。みんな違っていいのに、結局自分をカテゴライズしていたのは自分だったんです。だから今は遠慮なくハッピーになろうと思っています。それこそが社会貢献へのファーストステップだと思うから」

一ノ瀬 メイ
Profile
パラリンピアン、モデル、スピーカー。1997年、京都府生まれ。一歳半から水泳を始め、史上最年少の13歳でアジア大会に出場。2016年、リオデジャネイロ・パラリンピックに出場し、2020年200m個人メドレーで世界ランキング1位に輝く。2021年に現役を引退後はスピーカー、モデル、俳優など、活躍の幅を広げながら、ウェルビーイング、サステナビリティ、ダイバーシティ&インクルージョンを軸に国内外で活動している。