今を生きる現代女性の美しさを、
彼女たちが心に描く、繊細でしなやか、
そして時に力強い風景と共にご紹介する
COLUMN of COLUMN。
日常のさまざまな角度から、
美の解釈を映しだし、
COLUMNを通してその女性の輝きが
宿る瞬間に触れる時間。
力強く、優美。書家・岡西佑奈さんが生み出す書には、相反する魅力がひとつの線の中に共存している。白い紙に、黒い墨。その極めてミニマルな世界に、呼吸や身体の動き、その瞬間の感情までもが映し出される。
6歳から書の道を歩み始め、高校在学中に師範の資格を取得。現在は国内外で作品を発表しながら、日本古来の書を現代アートへと昇華させている。「書いている瞬間こそ、もっとも自分そのものになれる」。その言葉通り、一本の線には、岡西さんの感性や生き方までもが宿る。変化や揺らぎを受け入れながらも、自分の軸を失わない。そんな彼女の生き方は、COLUMNが描く、柔らかさの中に確かな意志をもつ現代の女性像とも響き合う。前編・後編の2回にわけて、その魅力をひもとく。
「幼い頃は人見知りで、コミュニケーションが得意ではなかったんです。でも書道教室では一人の世界に没入することができて、とても心地よかった。気がつけば“書くこと”が自分の居場所になっていました」。言葉ではうまく表せない感情も、筆を持つと線になった。「自分でも気づいていなかった感情が線に出てくる。自分の内側にあるものを表現することで、自分自身を知ることにつながりました」
高校生で師範となるほど打ち込んだ一方、一度は書を離れ、女優を志した時期もあった。転機は22歳頃。「私の昔の作品を見た知人が、褒めてくれたことがきっかけ。しまい込んでいた道具を取り出し、久しぶりに紙に向かいました。一心不乱に書き続け、気づけば朝に。やっぱり私は書道が好き、書きたくて仕方がないんだと再確認しましたね」
以来、書は生涯をかけて歩み続ける“道”となった。すでにキャリアを築いた今も、改めて師について学び続けている。「書は基本ありきの世界。学び続けたその先に自由な表現があると思っています。昔はもっと上手くなりたい、評価されたいという気持ちもありました。でも今は、どこまで自分らしい表現ができるかがプライオリティ。年齢や経験を重ねれば線も変わる。その変化も受け入れながら、一生書き続けていきたい」
そんな岡西さんの作品に大きな影響を与えているのが自然。大阪の海遊館で目にしたジンベエザメの、巨大な身体をしなやかにくねらせながら水中を進む姿に、自身が追い求めていた線を見出した。「サメの動きって、ダイナミックなのに滑らかなんです。自分がどんな線を描きたいのか、たくさんの気づきをもらえる、“線の師”ですね」
サメが教えてくれることは、曲線の美しさだけではない。その姿を見つめるうちに、岡西さんの探求心は、自然そのもののあり方へと広がっていく。「自然は、決してこちらの都合に合わせてはくれません。波も風も、生き物も、それぞれがあるがままに存在している。それなのに、全体では不思議なほど調和している。その状態に、とても惹かれます」
この“あるがまま”という感覚は、岡西さんが一番好きだという字『儘(まま)』にも通じる。字の成り立ちは、人が筆を持ち、お皿を空にしていく。余計なものを取り払い、最後に残るのはありのままの姿。そこには、岡西さんが大切にしたい生き方も表れている。
「“わがまま”って、我がまま、ありのままの自分でいるという、本来はとてもいい言葉。でも、自分らしくいることって、実はなかなか難しい。だからこそ、いい意味で“わがまま”でありたいと思っています」
自然が人の都合に合わせてくれないように、書もまた、すべてを意のままにできるものではない。墨のにじみやかすれは、完全にはコントロールできず、予期せぬ線が生まれることもある。かつてはすべてを思い通りにしたいと考えていた岡西さんも、今ではそんな偶然さえ、その瞬間にしか生まれない表現として受け入れている。「筆を持てば、呼吸や身体の動きがそのまま線になります。自分の中にあるものを一旦空っぽにして、その瞬間の自分の線として残していく。それこそが書く喜びだと思っています」
その言葉を象徴するように、今回、COLUMNのために選んでくれた一字は「瞬」。海への想いを込めた自身のアート作品「青曲」が飾られたアトリエで、凛と筆をとり、息をのむような緊張感のなか、一気に書き上げた。呼吸も、身体の動きも、心の揺らぎも、そのときだけのもの。同じ線は、二度と書けない。「人生を変えるのは、特別な一日ではなく、日々の中にある小さな“瞬間”なのかもしれません。心が動いた瞬間を逃さず、その一瞬に全力で向き合う。そんな想いを込めて、『瞬』という字を選びました」
岡西さんにとって書とは、まさに今この瞬間の自分を一本の線に刻むことでもある。「以前は、強くならなければと思っていました。でも今は、ずっと力を入れていることが強さではないと思っています。しなやかに形を変えながらも、自分の軸は失わない。それこそが、本当の強さなのかなって」
Knit ¥44,000Pants ¥33,000
変化することも、揺らぐことも受け入れながら、自分の中心にあるものは手放さない。岡西さんが追い求めてきた線には、そんな彼女自身の生き方も映し出されている。
さまざまな役割や価値観の中で生きる現代の女性にとって、自分らしくあり続けることは、決して簡単ではない。やわらかさも強さも、そのすべてを自分の一部として、自分なりの美しさを見つけていく。そんな彼女の生き方は、まさにCOLUMNが描く、自分らしさを携えてしなやかに今を生きる女性の姿そのものだ。今、この「瞬」を自分らしく生きる。その先に、その人にしかない美しさが生まれていく。
Vol.8へと続きます。
岡西 佑奈
Profile
書家、アーティスト。1985年東京都生まれ。6歳から書を始め、栃木春光に師事。高校在学中に師範免許を取得し、水墨画を関澤玉誠に学ぶ。22歳より本格的に書家として活動を開始。独自のリズム感と心象を映し出す線、自然界に息づく“曲線美”を追求し、国内外で作品を発表。近年は書にとどまらず、墨象や絵画、ライブパフォーマンスなど表現の領域を広げている。自然と人、万物の調和を創作の根底に据え、アートを通して地球環境や平和へのメッセージも発信している。