今を生きる現代女性の美しさを、
彼女たちが心に描く、繊細でしなやか、
そして時に力強い風景と共にご紹介する
COLUMN of COLUMN。
日常のさまざまな角度から、
美の解釈を映しだし、
COLUMNを通してその女性の輝きが
宿る瞬間に触れる時間。

岡西佑奈(書家・アーティスト) Instagram

前編では、書家・岡西佑奈さんが一本の線に託す思いや、自然から受け取った美意識についてひもといた。後編では、表現者として、母として、妻として、多忙な日々を送るなかで見つけた、自分らしく生きるためのヒントを探る。

書家として活躍する一方、二児の母でもある岡西さん。母になったことで、時間に対する感覚は大きく変わったという。

「どんどん成長していく子どもを見ているうちに、“今”を大切にする感覚が以前より強くなりました。昔は朝まで仕事に没頭することもありましたが、今は時間に限りがあるからこそ、目の前のことにぐっと集中できるように」

同時に、それまで抱えていた“完璧でありたい”という思いにも変化が訪れた。

「最初は仕事、家事、育児、すべてを完璧にやろうとしていたんですが、無理だと気づいて(笑)。むしろ力を抜いたほうが、うまくいくこともある。今は100%ではなく、80%くらいの力加減でいることを意識しています。そのほうが、本当に必要なときに全力を出せる気がします」

心身のバランスを整えるため、座禅やヨガ、読書など、ほんのひとときでも自分をリセットする時間を大切にしている。「忙しくなると、呼吸がどんどん浅くなってしまう。一旦すべてを手放して、深呼吸し、自分と向き合う。書く前にも必ずそういう時間をつくります。私にとっては、実際に書く時間以上に、その前の20分が大切」

自分の内側に耳を澄ます習慣は、日々の選択にも通じている。何かを判断するとき、つねに軸にあるのは自身の感覚だ。「人からどう見られるかより、自分がどう感じるかを大事にしています。美しいと思うもの、心が惹かれるものを信じたいし、自分の直感に素直でいたい。たとえ不安に感じる要素があっても、“やってみたい”と気持ちが動いたら、なるべく挑戦するようにしています」

自らの感覚を信じ、惹かれたものとまっすぐ向き合う。その姿勢は、作品づくりにも色濃く表れている。なかでも岡西さんの創作に大きな影響を与えたのが、海との出合いだ。サメに魅せられ、海へ潜るようになったことで、その美しさだけでなく、海が抱える環境問題にも目を向けるように。やがて、作品を通して自然を未来へつなぎたいという思いも芽生えていった。海や地球への思いを託した作品『青曲』も、そのひとつ。

「アートには、言葉や数字では伝えきれないメッセージを、人の心に届ける力があると思っています。まずは作品を見て、純粋に美しいと感じてもらいたい。その感動を入り口に、作品の背景にある自然や海、そして今そこで起きている問題にも目を向けてもらえたら。やがて、“この美しい景色を未来に残したい”という思いにつながっていけば嬉しいですね」

未来へ残したいのは、自然だけではない。書の道を支える日本の伝統文化にも、同じ思いを寄せている。作品に使うのは、90歳を超える人間国宝・岩野市兵衛さんが手がける越前和紙。薬剤を一切使わず、昔ながらの製法で作られる貴重な和紙は、ルーブル美術館などに所蔵される美術作品の修復にも使われるほど丈夫だという。岡西さんは、書き損じた紙も自ら漉き直し、新たな作品へと生まれ変わらせている。「一枚の紙には、職人の手仕事と、自ら筆を走らせた長い時間が息づいています。だからこそ、無駄にすることはできません。和紙は日本が誇る文化。作り手への敬意を忘れずに、書き手である私たちも次の世代へつないでいきたいと思っています」

一方で、伝統とは、過去の形をそのまま守り続けることではないとも考えている。「デジタルの時代になっても、書には未来へと続いていってほしい。でも、今と同じ形である必要はありません。伝統とは、先人から受け継いだものに、その時代を生きる人が新たな価値観を重ね、次の世代へと手渡していくこと。書もまた、時代とともにしなやかに変化していっていいと思うんです」

書の可能性をさらに広げるべく、海外での活動にも力を注いでいる。「日本の文字が読めなくても、線の美しさや力強さ、余白や呼吸から、何かを感じてもらうことはできる。海外では“日本の伝統文化”として捉えられることも多いですが、書は本来、人が自分自身を表現するアートのひとつ。もっと自由に、ひとつのアートフォームとして受け取ってもらえるようになるのが目標です」

その思いは、少しずつ海の向こうにも届き始めている。SNSをきっかけに海外からのリクエストが増え、訪日外国人に向けたエクスクルーシブな書道教室を開くこともあるそう。「海外の生徒さんに戦国武将の書状と恋文を見せると、言葉の意味がわからなくても、そこに宿る感情の違いは不思議と伝わるんですよね。文字を超えて、一本の線が人の心を動かす。そんな瞬間に、書が持つユニバーサルな表現の力を改めて実感します」

日々の装いもまた、その人自身を映し出す表現のひとつだという岡西さん。「私のワードローブはモノトーンでシンプル。書も基本的には、黒と白のミニマルな世界ですが、だからこそ墨の濃淡やかすれ、にじみ、余白まで、そこにあるものすべてが際立つ。シンプルでありながらとても豊かで、個人的には一番派手な色だと思っています。書もファッションも、余計なものをそぎ落とすほど、個性や美意識がまっすぐに表れる気がします」

年齢や経験を重ねるなかで、“こうあるべき”という理想像にとらわれることも少なくなったという岡西さん。自らの感覚を信じ、心惹かれるものを選ぶ。そんな彼女にとって、“女性らしさ”もまた、他者が定義するものではない。「人が決めた女性像に自分を合わせるのではなく、自分が心地よいと思う姿でいる。そういう自由さの中に、私は美しさを見出します」

書家、母、妻——さまざまな役割を軽やかに行き来しながらも、自分の軸は手放さない。岡西さんが一本の線に映し出してきた生き方には、しなやかさと揺るぎない意志が宿っている。自分の感覚を信じ、自らの意思で人生を描いていく。その姿は、COLUMNのフィロソフィーである、自由で芯のある女性像を鮮やかに体現している。

岡西 佑奈

Profile
書家、アーティスト。1985年東京都生まれ。6歳から書を始め、栃木春光に師事。高校在学中に師範免許を取得し、水墨画を関澤玉誠に学ぶ。22歳より本格的に書家として活動を開始。独自のリズム感と心象を映し出す線、自然界に息づく“曲線美”を追求し、国内外で作品を発表。近年は書にとどまらず、墨象や絵画、ライブパフォーマンスなど表現の領域を広げている。自然と人、万物の調和を創作の根底に据え、アートを通して地球環境や平和へのメッセージも発信している。